防音設計で選ばれる時代へ。建ててから後悔しない音の話


今回もまた《Aoba Link 不動産総研》さんがおこなわれたアンケート「引越し後に後悔したことランキング」をご紹介しながら、建築士としてできる対策をお伝えしていきたいと思います。

引越ししたことがある500人に「引越し後に後悔したことがありますか」と聞いたところ、「ある」と回答した人が87.4%にのぼりました。

多くの人が「後悔したこと」「不満に感じたこと」があるとわかりました。

 

引越しで失敗したくなくて情報収集しても、実際に住んでみると「こんなはずじゃなかった」と感じることも多いようです。

中には「失敗したから、すぐ別の家に引越したい」と感じる人もいます。

 

引越し後に「後悔したことがある」と回答した437人に後悔の内容を聞いたところ、

 

圧倒的1位は「騒音がひどい(176人)」でした。

2位「日当たりが悪い(39人)」、

3位「住民トラブルがあった(38人)」、

4位「設備への不満(34人)」と続きます。

 

また「騒音」「日当たり」「隣人とのトラブル」など、短時間の内見ではわかりにくいポイントを挙げた人が多くなっています。

 

1位:騒音がひどい

昼間に内見すると、夜間の騒音には気づけないことが多いです。

そのため実際に住んでみてから騒音に悩まされる方も少なくありません。

壁が薄くて隣人の生活音が聞こえる場合、自分が出している音を聞かれている可能性もあり気持ちのよいものではありませんね。

隣人や上階の生活音や足音だけではなく、外から聞こえる電車や車の走行音が気になったというコメントも目立ちました。

・内見した時にはわからなかったのですが、壁が薄くて隣の人の声などが聞こえる(27歳 女性)

・思ったより、外の音が聞こえる(37歳 女性)

・上階の騒音(生活音)がとても気になりました(45歳 男性)

2位:日当たりが悪い

これは、GoogleMapを3Dにして、太陽光が来る方向を考えるとだいたいの想像はつきます。

それを頭にいれつつ、現地を観察しましょう。(Mac安田の意見)

3位:住民トラブルがあった

とくに「下階や隣の住民から騒音クレームが入った」というケースが目立っています。

隣人とうまく折り合えないと、ストレスが溜まりますよね。

隣近所にどんな人が住んでいるかも、内見ではなかなかつかめないポイントです。

・マットなどの対策はしていたのですが、下階の住人からたびたび「子どもの足音がうるさい」と言われました。
   駐車場にゴミを置かれるなどの嫌がらせを受け、1年も経たずまた引っ越しました(35歳 女性)
・隣の住人が、何かにつけて文句を言ってくる(46歳 男性)

1位と3位はいずれも騒音に関するトラブルといって良いでしょう。

引越し後に後悔しないためにしたほうがいいこと


 

1位と2位と7位:しっかり内見する

「昼だけではなく、夜も行った方がいい」という声が多数。

日中は隣人が仕事などで留守にしていることが多く比較的静かですが、夜は生活音が確認できるからです。

時間をずらせば、時間帯ごとの日当たりも確認できます。

 

4位:近隣住民について調べる

周辺住民や同じマンションの住民に「マナーの悪い人」「音に神経質な人」がいるかどうか、できれば知りたいですよね。

とはいえ、大家さんや不動産会社に聞いても、詳細は教えてくれない可能性が高いです。

 

・時間を変えて、何度も内見すればよかったと思います(38歳 女性)
・可能であるなら時間をずらして、内見を複数回したほうがいいです(43歳 男性)
・現地には何回も足を運ぶべきです(50歳 男性)
・左右の住人だけでなく、上下の住人についても聞いておけばよかったです(28歳 女性)
・周辺住民の調査(30歳 男性)
・個人情報の問題もあるでしょうが、できれば隣や上階の家族構成などを把握しておいた方がよかったです(45歳 男性)

あまり参考にならないかもしれませんが・・・


私は自宅を3回建てましたが、そのつど土地を買う前にしてきたことがあります。それはご近所への挨拶まわりです。

ふつうは土地を買って、家が完成して、いざ引越しするときに挨拶まわりをするものですが、それでは手遅れです。

1回目の家は27才のとき、2軒目は34才の時、3軒目は49才の時でした。

土地を買う前に挨拶まわりするアイデアは27才の若造にしてはGoodだと、昔の自分を褒めてやりたいジジイであります。

 

気に入った土地があったら、契約をする前に菓子折りをもって挨拶に行きます。

「こんど、お隣の土地を買って家を建てようと思っております。少し早いかも知れませんがご挨拶に参りました」といって

頭を下げて回ります。するとだいたいのことは分かります。だいたいといっても、暴力団員またはそれに近い人がいないか?

 ときどき奇声を上げる人がいないか? 極端に自分勝手な人がいないか? ピアノの音が響いてくるか?・・・

わかるのはそれくらいのものですが、異常な人が隣近所にいると困るので挨拶をかねて調査したのです。

 

でもこの調査はマンション住まいの人にはあまり参考にならずに、すみません。

というのは戸建住宅の場合、お隣の家とこちらの家の柱や梁は共有されておらず、別々だからです。もちろん基礎も別々です。

ですのでピアノでも弾かない限り、住民の話し声や家の中で子供が暴れる音は伝わってきません。

ところがマンションの場合は右隣の住戸も左隣の住戸も、上の階の住戸も下の階の住戸も、共通の柱と梁、共通の床と壁でひとつづきなので騒音や足音はモロに伝わってきます。

とくに夜中は周囲が静かなので、お昼間に気づかない騒音や足音が目立ちます。

ですから、日中にいくら注意深く内覧しても、実際の騒音や足音のことはほとんどわからないのです。

夜中に内覧するのは難しいし、何日間か泊まり込まないと本当のところはわかりません。

実は大家さんの危機


《引越し後に後悔したことランキング》をお読みになって、「ほー、なるほど、マンションの住民さんもいろいろ苦労なさっているようだね」と落ち着いて感心している大家さん。

それ、対岸の火事じゃないですよ!

 

騒音トラブル176人+住民トラブル38人(ほぼ騒音が元)を加えると214人。

アンケート総数が500人ですから、42.8%の入居者が騒音や足音に悩まされているという結果です。

中には「失敗したから、すぐ別の家に引越したい」と感じる人もいらっしゃいます。

 

そうは言っても、[敷金+礼金+斡旋手数料+1か月分の家賃+引っ越し費用]などを考えるとそう簡単には出ていけません。

しかし騒音や足音には我慢ならない。騒音や足音はほかのこととちがって、慣れてくるということがなく、むしろ神経は過敏になっていき、精神的にどんどん追い込まれてきます。

ですから、引っ越し要求は常に心に充満しており、少しでも火種があるとすぐに爆発するでしょう。

もっとも危ないのは更新時期です。

今に問題になる


2025年8月。いまのところ住民さんたちも、管理組合も大家さんも、「それは住民同士の問題だ」「マンションは集合住宅なんだから、節度をもって生活し、ある程度はガマンして住むものだ」と思っていらっしゃるようです。ネットで、騒音・足音問題と検索しても「原因は建物」「加害者は建築士」という記事はひとつも出てきません。

左は、建築基準法の界壁(マンションの住戸と住戸の境界塀)の遮音(防音)に関する規定です。

 

建築基準法施行令第22条の3に界壁(マンションの住戸と住戸の境界壁)の《遮音性能》を定めていまが、それはあくまで「界壁」に関しての話。

 

建築基準法で定めている防音レベル(透過損失)は青で囲った通りですが、

実際にそれをクリアしているかどうかは検査されず、とりあえず赤で囲った認定品を採用すればそれで通ります。

 

左下のグラフの青が建築基準法の規定、赤は認定製品のデータですので、合格します。

ところが、マンションで暮らしてみると騒音はダダ漏れです。なぜなら《音の回り込み》があるからです。

遮音壁の専門メーカーはそのことをしっかり伝えていて、《音の回り込みチェックシート》まで用意してくれています。

その結果、マンションの遮音(防音)性能はこのグラフの紫(D-30)程度であり、表現は悪いですが騒音はダダ漏れ、会話はツツ抜けといった状態です。

ちなみに日本建築学会では、D-40を「やや劣る」としていますので、D-30ならさしずめ「ひどく劣る」でしょう。

 

また、D-55を「特に優れている」と評価していますが、私に言わせれば特級でもまだまだ不足です。なぜなら、2才児の夜泣きの泣き声は90dbを超え、場合によっては100dbもあり得るという報告があるからです。

 これに対して、睡眠に影響を与えないとされるレベルは、30dbです。 つまり、100db-30db=Dr-70dbが要求されます。


遮音(防音)能力Dr-70dbは、私が2023年に完成させた《Musik北参道》の遮音レベルに相当します。

Dr-70dbは遮音壁専門メーカーの最高峰の製品を使っても実現できません。音の回り込みがあるからです。

音の回り込みをシャットアウトするには、マトリョーシカ構造以外にはありえません。

危機を逆手に取る


くりかえしになりますが、建築基準法は・・・最低の基準を定めたものですから、騒音や足音に関しても最低の基準です。

もうすこし補足すると、建築基準法は耐震基準に関してはずいぶんと高いレベルに達していると思いますが、こと騒音や足音に関しては無法地帯といっても良いでしょう。

いまのところ、それに気づいている人は少ないはずです。

なぜなら建築学の1つとして建築環境学がありますが、注目されているのは省エネ、地球温暖化、バリアフリーなどであり、睡眠に関することはあまり注目されていません。

本来、建築環境学は、人間の生理・心理と建築空間の関係を探求し、より快適で安全な建築環境を創造するための学問なのに、最も大切な「睡眠」については手つかずなのが現状です。

でも、いったん火がつくと、「睡眠に影響を与えないレベルの防音・足音対策」が脚光を浴びるのは間違いありません。なので、今のうちに防音・足音対策をバッチリやっておくべきです。

防音・足音対策は難しいが、できる


防音・足音対策はとても難しいです。各メーカーから出ている防音建材を寄せ集めても成り立つものではありません。

防音・足音対策の真髄を理解したうえで、総合的に対処しないと音漏れが発生するからです。

また、防音建材の使い方のコツ、意味合いがわかっていないと、お金をかけて元より悪くなるケースが頻発する、いわばタチの悪い代物なのです。

これが、誰も手をつけてこなかった理由です。

 

しかし弊社はそれぞれの道の第一人者とのご縁をいただき、クライアントにいただいた実験のチャンスを大事に有効に使わせていただいて、完璧な防音・足音対策をマスターいたしました。つぎに具体的な対策の項目だけ上げておきます。

     界壁:A-2000WI

② 浮床:コンクリート100㎜ + グラスウール25+25㎜(96 kg/m³)
③ マトリョーシカ壁面:SH(比重1.2)12.5㎜×3 空気層100㎜
④ マトリョーシカ天井:SH(比重1.2)12.5㎜×3 防振ゴム吊りボルトを小梁に指示 
⑤ 小梁@:通常の1/2
⑥ LDKとせず、キッチンを独立
⑦ 防音ドア:Yamaha木製防音ドア(Dr-35)
⑧ 防音コンセント・防音スイッチボックス
⑨ インナーサッシュ、サイレンサー施工 異厚ガラス
⑩ 防音ダクト換気扇32型