

やはり問題は上の階から響く足音なんですね。
そりゃそうでしょう。狭いとか収納が少ないとかは入居前から分かっていて、財布と相談して入居を決めたわけですから。
それに対して騒音・足音は、生活してみて初めてわかることですし、相手とのいさかいの原因になるので問題が深いのです。
自動車会社の「衝撃実験」を参考にさせていただきます
住宅と自動車は一見関係がないように思われますが、共通(関連)した問題もあります。
そして建築業界よりも自動車業界のほうが遥かに研究熱心で、膨大な研究費もかけておられます。
ここではホンダ自動車のHPの「衝撃実験」をお借りして、大人の足音・子供が走り回る足音対策を考えていきたいと思います。

いきなりショッキングな画像で恐縮ですが、衝突実験の画像です。(車内の人のけがを極力小さくするための実験)
左側はインサイトという普通車です。(車の重量1600kg)
右側はおなじみのNboxです。(車の重量800kg)
このあとどうなったでしょうか?

衝突した地点は赤いラインが重なる場所です。
インサイトはその場に留まっています。
Nboxはというと、ずいぶん遠いところまで飛ばされました。
なぜでしょう?
Nboxの重量は800kgであり、インサイト(1600kg)の半分しかないからです。
仮に、NboxがベンツのSクラスに、突進したらどうなるでしょう。たぶん、ベンツのSクラスはビクともしないでしょう。
➡ ヒント1:重いほうが有利(質量則)

Nboxは軽量だしボンネットも短いけど、衝突しても室内空間はぺっちゃんこにならないように、工夫してあります。
骨組みを工夫することによってボンネットで衝撃を吸収するように設計されているのです。
➡ ヒント2:衝撃を吸収する装置が必要
賃貸マンションへの応用

60kgの大人が静かに歩くとき足にかかる重量はほぼ60kgです。
では、幼稚園児年長さん(体重20kg)が走り回る時、足にかかる重量はどれくらいでしょう?
桜井智野風教授(桐蔭横浜大学:運動生理学博士)によると、体重の約4倍、80kg分の衝撃だそうです。
それに対して私がつくるマトリョーシカ構造の床の重さは6帖の大きさで2400kgあります。ベンツのSクラスよりさらに重くしました。
床の重量は、走り回る子供の衝撃力の30倍もあるので、ビクともしません。
とはいえ、衝撃波は残ります。
なので、これを吸収する装置が必要になってきます。
現場ではこのように造る

① 衝撃吸収材の上に防水シートを張り巡らす
② 浮床の強度を確保するために餅網状の鉄筋を配置
③ 手前に見えるのは、地震時に浮床が移動しないための土手

④ コンクリートを10㎝の厚みに打設する
⑤ 周りの壁と癒着しないよう浮床の周囲にも衝撃材を挟む
⑥ コンクリートの比重は2.4なので、6帖の部屋で2400kg
衝撃波を吸収するマトリョーシカ構造

元々のコンクリートの床の上に衝撃緩衝材を敷いて、その上にもう1枚コンクリートの床を作る。
間仕切り壁や外壁を軽量化して建物全体の耐震強度を保つ。

上の写真で黄色く映っているのが衝撃緩衝材。
走る子供の足は80kgの衝撃を加えるが、2400kgの床に跳ね返される。それでも残る衝撃波を衝撃緩衝材が吸収する。
上記の実例:Musik北参道の性能は?
とてつもない性能を発揮してしまいました。
日本建築学会ではLH-40を特級としていて、それ以上の性能は想定しておりません。遅れてるぅー
Musik北参道のはLH-35なので、いわゆる超特急?
ここで今一度、LHとLLの違いを整理しておきましょう。
LHは重量衝撃音といって、子供が走り回ったり、飛びはねたりする衝撃です。
重量衝撃音を吸収して階下に伝えないようにするには、とても高度な技を必要とします。
それに対してLLは軽量衝撃音といって、ナイフやフォークを落とした時の衝撃です。
これなら床にカーペットでも敷いておけばそれで解決します。
ジグソーパズルのようにつないで敷くスポンジマットでもOKです。
著者のボヤキ:たまに大人でも踵から足をおろすクセのオッサンがいて、大きな衝撃をコンクリートの床に与えます。
「大人だったら歩き方くらい気をつけろ!」と言いたくなります。かかとからドスドスあるいていたら、
歳をとったとき膝を悪くするので、改めたほうがお互いにいいわけです。



LH-35の性能をハウスメーカーが作れるか?

「鉄筋コンクリート造にも匹敵する、高い遮音性能」と誇らしげですが、足音を消すにはLH-50ではまだまだ性能不足です。
これがハウスメーカーでは最上位ブランドの実力です。
実際に入居者の9割以上が納得してくれる足音対策にはLH-35が必要です。
このような構造を、ハウスメーカーのマンションにつくれるかというと、はっきり言って「ムリ」です。
なぜなら、重量鉄骨とは名ばかりで、建物としては軽量級だからです。
ちなみに重量鉄骨の定義は、鉄骨の柱や梁の肉厚が6㎜以上と定められています。
6㎜といってもピンとこない方のために、食パンを例にとってお話しします。
サンドイッチ用の食パン(10枚切り)の厚みは、12㎜です。
あのペラペラの、サンドイッチ用の食パンの、さらに半分の厚みがあれば重量鉄骨と呼ばれるのです。

ハイブランドハウスメーカーの鉄骨

Musik北参道の鉄骨
上の写真はどちらも重量鉄骨です。
ボクシングには体重に応じてクラスが15段階もありますが、鉄骨には2つしかありません。
ここで勘違いなさらないでほしいのすが、ハイブランドハウスメーカーの構造体は弱いと言っているのではありません。
ハウスメーカーのマンションも、地震にはめっぽう強い耐震構造です。
でも、地震に耐えることと、大人が歩いたり子供が走り回ったりするときの振動は別モノなんです。
いくら地震に強くても、振動や音は伝わってしまうのです。
振動を止めるには、ベンツのSクラス以上の重さのコンクリートの床を二重に敷き詰めるしかないので、鉄骨も基礎もスーパーヘビー級にならざるをえません。
よって、「軽量級であるからこそ地震に強い」というハウスメーカーの立ち位置では実現不可能です。

ハウスメーカー基礎

私が設計する中規模のビルの基礎
築年数が経っても家賃が下がらない
前述のとおり驚異的な静けさを実現するLH-35をつくるには、鉄骨も基礎もスーパーヘビー級にする必要があります。
よって、
① ハウスメーカーでは実現不可能
理由:企画部品を工場で大量生産して現場で組み立てるからこそ、ハウスメーカーに利益が生まれる。
そのためには、建物の軽量化が不可欠。
② 既存のマンションを改修できない
理由:耐震基準ギリギリな構造計算がなされているので、マトリョーシカ構造を追加すると重量オーバー ➡ 耐震性不足となる
すなわち、競合が現れない。➡ 独壇場 ➡ 築年数が経っても家賃が下がらない
※ マトリョーシカ構造の防音・足音対策性能は築年数が経っても衰えません
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