なぜ、大手の賃貸マンションは似たり寄ったりなのか   (その1)


プロローグ


 

「ハウスメーカーの展示場へいってきたんだけど、それぞれのメーカーの顔(デザイン上の特徴)ってあるんだね。

車と同じだね。ベンツにはベンツの顔、マツダにはマツダの顔がある。グレードや大きさはちがっても、基本みんな同じ顔」

   これは、私の事務所へおいでいただいたクライアントが真っ先に仰った言葉です。

京都御所にほど近い場所。京町屋が建ち並び、それに逆らわない形で明治時代に建てられたレンガ造りの建物も寄り添っている。そこは同志社大学の側。京町屋もレンガ造りも趣があって、年月をかさねるほどにヴィンテージ感が育っていく。

 

「私はこの街を散歩するのが好きで、誇りに思っているんだ」

「この街にしっくりくるレンガ造りの建物を設計してほしい」と、さっそく私に依頼してくださいました。

 

「条件はひとつだけ。 それは、その建物がマンションに見えないこと」

 

そのお話を聞いたとき、私は涙が出ました。 分かってくれている人がいたんだ! 

ハウスメーカーの強烈な営業に100人中99人は吞まれてしまうのに、街並みを守っていこうという人がいたんだ。

そして私からの答えは ↓ ↓ ↓


ベランダは奥にあります



道路から見えない部分に、ちゃんとベランダがあるのだ


冒頭にお話しした通り、クライアントから私への唯一の注文は「でき上った建物がマンションに見えないこと」

それを実現するコツは

 

① ベランダに洗濯物が干されると最悪 ➡ 建物の奥にベランダを設ける

② ハウスメーカーの外観はノッペリしている ➡ 建物に凹凸をつけて陰影による重厚感をかもしだす

③ 引違窓は悪くないが、マンションで多用されすぎたので極力避ける


ハウスメーカーの生産性は高いが・・・



ハウスメーカーの生産性は高い。工場生産なので品質のばらつきも少ない。

企画共通部品で大量生産するので、コストダウンできる。 

良いことずくめのようだが、ちょっとまてよ。 これは自動車の理論ではなかろうか?

 

建物は自動車とはちょっとちがうのだ。自分の好みだけで選んではいけないのだ。

「えっ? 自分の土地に、自分のお金で家を建てるのに、好きにしてはいけないの??」

そんな疑問をもたれるのも当然だと思います。でも、建物には公共性があるのです。

京都やパリの街並みに代表されるように、家々が協調性をもって並び、木々や川が潤いを添えてこそ

資産価値が保たれるのです。そして結局、あなたの投資は何倍にもなって還元されるのです。

都心のマンション(2023年 弊社設計)

田園都市のマンション(1996年 弊社設計)


いうまでもないことですが、私は設計を始める前にまずその街並みを歩いてみて回ります。

そしてその街並みの資産価値を上げるようなデザインを考案します。


オリジナルデザインの建築費は高いのか?


クライアントからのリクエストは、実は一つではなかったのです。

 

「ハウスメーカー(ハイブランド)と同じくらいの建築費で頼みますよ」

 

結論から申し上げますと、可能です。

私はずっと、ハウスメーカー(ハイブランド)と同じくらいの建築費で納めてきました。

マンション経営はシビアなので、建築費が高いと採算が合わなくなるからです。

 

ところが、私が設計する建物はスーパーヘビー級であり、たくさんの建築資材を使います。

性能はもちろん、デザインにもコダワリます。

なのになぜ? ハウスメーカー(ハイブランド)と同じくらいの建築費でできるのでしょうか。

それはひとえに、私の設計に魅力を感じてくれる建築会社さんの企業努力の賜物です。感謝。

 

建築会社はもちろん営利会社なのですが、嬉しいことに今の時代でもモノづくり人間が生き残っていて、

「たまにはおもしろい仕事もしてみたい!」と、得値を出してくれる会社があるのです。ありがたい。


歳月を重ねてヴィンテージ感が育つ建物


いままで側でニコニコと話を聞いていたクライアントの奥様からひとこと。

 

「歳月を重ねてヴィンテージ感が育つ建物」にしてください。

 

私はにっこりして言いました。「まだほかにもリクエストはありますか?」

「いいえ、ありません。これだけです」と奥様もにっこり。

3人で手を取り合って握手しました。「よっしゃー!」

クライアントと気持ちが通じ合った瞬間です。

カフェ風リビング


手作りのホテルバス


なんとなくレトロ


愛車が入る玄関



上の写真をご覧になって、なんとなくレトロ・・・とお感じになりませんか?

実は、一カ所もビニルクロスを使っていません。

 

ビニルクロスは建築会社のクレームを最小限にするために開発された建材です。

壁や天井の下地はボードでつくりますが、ボードの継ぎ目をしっかり処理しておかないと、必ずヒビ割れします。

日本人は几帳面なのか、やけにひび割れを嫌います。曲がった胡瓜を嫌うように・・・

ビニルクロスは伸縮するので、ちょっとくらいのヒビ割れは隠してくれます。

このようにビニルクロスは便利な内装材なのですが、年月が経つとだんだん黄ばんできます。

ほうっておくと、湿っぽくみすぼらしいお部屋になってしまいます。

 

逆に、ペンキ塗り仕上げには塗りムラがつきものです。私はそれを「味」だと思いますがいかがでしょうか。

歳月を重ねるとヴィンテージ感が育ちます。

ちょっとがんばれば自分で塗り重ねて、お部屋の雰囲気を変えることもできます。

塗り重ねているうちに、だんだん角が丸くなります。

人間が歳をとるのと似てますね。 


建物でなく、敷地が稼ぐのだ!


アットホームで「相場から探す」をクリックすると、駅ごとの家賃相場がでてきます。

これは山手線で1LDK(約30㎡)の家賃の比較です。

原宿ではなんと17万円! 渋谷は16万円。なんとなくわかるような気がしまる。

池袋って意外と安いのですね。11万円です。便利なのに。

 

さて、ここで問題です。

同じ設計図で同じ建築会社で建てた場合、原宿と池袋では建築費は違うでしょうか?

正解:もちろん建築費は同じ。あたりまえすぎてごめんなさい。

でも、もらえる家賃は1.5倍! (もちろん原宿と池袋ではコンセプトを変える必要がある)

 

だから私は、建物ではなく、敷地が稼ぐのだ!というのです。

 

敷地はめいっぱい使きらないといけません。

昭和風に言うと「弁当の蓋の裏に着いたコメまで食う」 「マヨネーズのチューブをしぼりきってなお、料理ばさみで胴を切って、スプーンでえぐりだす」ということになります。

そつなく無駄なく使いきるという次元でなく、限界を超えた有効利用が生死を分けるのです。


ハウスメーカーは、敷地の有効利用に不利


これは、2025年5月に群馬県前橋市の一等地に完成させた賃貸マンションです。

この敷地は1辺も直角がありません。よく見るとDタイプもわずかに斜めになっています。

もしこの敷地にハウスメーカーの賃貸マンションを建てたなら、1フロアに3戸しかつくれません。

1フロアに3戸しかとれない敷地に4戸とる。この1戸が儲けにつながるのです。

まさしく、マヨネーズのチューブをしぼりきって、料理ばさみで胴を切って、スプーンでえぐりだす。

限界を超えた有効利用が必要なんです。


ハウスメーカーは敷地の立体利用にも不利


左の図は建築基準法による「道路斜線制限」です。

高さ規制にはこのほか、北側斜線、高度地区斜線、日影規制など、いくつもが絡み合って複雑怪奇になっております。

 

これだけ複雑に規制された環境において、四角いボックスを積み上げるハウスメーカーの生産方式ではとうてい土地の有効利用は図れません。

 

自称「土地利用の魔術師」である私が街を散歩するとき、あちこちで「ああ、もったいない・・・」とため息がもれます。

たぶん、大家さんはそれに気づいていないのでしょう。

 

なぜなら、賃貸経営をする大家さんは、たいていご先祖から譲り受けた土地に、賃貸マンションを建てるからです。

その場合なぜか、土地の値段をカウントしません。事業ローンは建築費だけなので、土地のことは忘れてしまうのかわかりませんが、実は、敷地の値段は建築費と同じかそれ以上に高いのです。「建物でなく、敷地が稼ぐのだ!」を思い出せば、土地の食べ残しはできないはずです。


まとめ


なぜ、ハウスメーカーの賃貸住宅は似たり寄ったりなのか?

 

① 街並みとのマッチングを無視して、建物だけデザインするので、趣が全くない

② 原宿と池袋では街並みや入居者のニーズが違うのに、ところかまわず営業する

③ 規格大量生産された四角いボックスを積み上げる構成では、似たり寄ったりにならざるを得ない