大手の賃貸マンションは、なぜ似たり寄ったりなのか? (その1)


各社のわかりにくい比較表


「大手ハウスメーカーの賃貸マンションは、どれも似たり寄ったりだ」という人がいますが、本当にそうなのでしょうか?

まずは、どんなメーカーがどんな商品を出しているか、ざっと見てみましょう。

木造・軽量鉄骨造・重量鉄骨造・鉄筋コンクリート造の4種類もの構造があり、坪単価もまちまちです。

実は、それぞれの構造には長所と短所があり、長所を引き出す設計をしないといけませんが、ここには説明されていません。

 

つぎに、「坪単価」ですが、そもその「坪」ってなんでしょう? 

3.3㎡のことです。(メートル法が施行されてから100年もたちますが、いまだに「坪単価」が使われています)

《 坪単価 × 施工延べ面積 = 建築費 》なんですが、ピンとこないと思いますので、もう少し身近なかたちで説明していきたいと思います。 


各社の建築費と、街並みとのマッチング


この表は大東建託のHPからお借りして、右の2つの欄は私が付け加えました。(左の表から、単に割り算をしただけ)

それと先の表の坪単価を組み合わせると、概ねの家賃と専有面積がわかります。

(建築費に対する家賃収入の利回りは一般的に約7%  専有面積効率は80%と仮定)

 

   ・大東建託       : ¥ 72.000(専有面積≒45㎡) ➡ 郊外向き

   ・大和ハウス工業    : ¥102.000(専有面積≒50㎡)

   ・セキスイハウス    : ¥151.000(専有面積≒60㎡) ➡ 都会向き

   ・東建コーポレーション : ¥ 68.000 (専有面積≒45㎡) ➡ 郊外向き

   ・旭化成ホームズ    : ¥122.000(専有面積≒60㎡) ➡ 都会向き

 

大東建託と東建コーポレーションは郊外向きです。逆にセキスイハウスと旭化成ホームズは都会向きです。

なぜならお金の潤沢な入居者は、広さや高級感にくわえて街並みやアクセスも要求するからです。

逆に、「アクセスさえよければ、お隣の住民のいびきが聞こえてきても良い」などというひとは少ないはずです。

実際、建築費の高いマンションほど、防音や足音対策もしている傾向があります。

 

なのに各社の営業マンは、ところかまわず営業をかけます。

そして自社の良いところばかりをアピールする。

なので地主さんから言わせると「どのメーカーも似たり寄ったりだ」ということになってしまうのでしょう。


入居者からの評判は?


「ハウスメーカーの社名 + 賃貸住宅の評判」で検索すると概ね下記のようなコメントが出てきます。

 

《 ローコストメーカーの評判 》

・建物は一見おしゃれできれいなのですが、要するに壁が薄い。

・隣の部屋の音や会話が丸聞こえで、あなたの出す音も隣の部屋に全部聞こえてしまう。

 

《 ハイブランドメーカーの評価 》

・高遮音床システムが採用されているため、騒音トラブルになりにくい。

・外観や内装のデザイン性が高い。

 ・防犯対策が徹底されている。

 

でも、上記を鵜呑みにするはできません。なぜなら、家賃が反映されていないからです。

家計を考えると、「壁が薄くても、そこを選ぶしかない」といった方もいらっしゃるでしょう。

 

逆に私が心配するのは、ハイブランドの高評価です。

多くの人が高評価しているので間違いないとは思うのですが、「防音性」については要注意です。

「防音性がウリなので、子供に自由にさせてやれると思って入居を決めた」という人と、

「防音性がウリだから、静かに生活できると思って入居した」という人が対立することになるからです。

 

実際、京都ナンバー1の管理会社の社長の話によると、木造アパートよりもコンクリートのマンションのほうが、足音や騒音のトラブルは多いとのことです。理由は、コンクリート造のマンションは静かなものだと、期待値が高いからだそうです。

はたして、ハイブランドハウスメーカーの防音対策はどんなレベルなんでしょうか? 


ハイブランドメーカーの防音・防振性能


ハウスメーカーの賃貸住宅で、「特上! 別格!」と高評価なシャーメゾンの足音対策を見ていきたいと思います。

まずは、シャーメゾンのHP内、アンケートから。

やはり問題は上の階から響く足音なんですね。

そりゃそうでしょう。狭いとか収納が少ないとかは入居前から分かっていて、財布と相談して入居を決めたわけですから。

それに対して騒音・足音は、生活してみて初めてわかることであり、相手とのいさかいの原因になるので、問題が深いのです。

ではその性能は、大人の足音に対する遮蔽性能は、どこまで改善されたでしょう?

 ● 音の感じ方には個人差があります。と、上手にガードしておりますが、私に言わせれば確実に性能不足です。

実は私も20年ほど前までは、「コンクリートで厚み20㎝の床をつくれば完璧だ!」と思っておりました。

 

私の、失敗で済まされない失敗談をお聞きいただけますか。

私が設計したマンションの完成写真を撮ったときのことです。カーテンや家具はもちろん、テーブルクロス、ワインクーラー、

シルバーのカトラリー、キャンドルライトまでセッティングしての撮影で、夜遅くまでかかってしまいました。

「この部屋を撮っているうちに、上の住戸を準備しておくように」とスタッフに指示を出して数分後、ドドドドゥー、ゴゴゴゴォーと遠くで雷が落ちたような太くて低い地響きが起こったのです。

私は一瞬、何が起こったかわからず・・・天井を見上げてケイタイで「おい、走るなよ!」と注意しました。

ところが「走ってなんかいませんよ。歩いてますよ」と涼し気な口調で返事があったのです。

私はぞっとしました。20㎝もの分厚いコンクリートの床なのに・・・

 

それから私は、防音、防振を猛勉強して、いろいろなパターンで実験させていただいて、ついにMusik北参道のレベルまでたどりついたのです。

20年前の未熟な私の設計でご迷惑をおかけした入居者の皆様に心から深くお詫びを申し上げるとともに、その後、向上のためとはいえ、いろいろ実験させて頂いたクライアントの皆様にこの場をお借りして感謝いたします。

 

そんな私が言うのですから、間違いありません。 LH-50でもまだまだ性能不足です。

ちなみにおなじみの、足音騒音のイメージ画像を添付しておきます。(足音は右の欄 LH)


大人の足音、子供が走り回る足音対策の研究


住宅と自動車は一見関係がないように思われますが、共通(関連)した問題もあります。そして建築業界よりも自動車業界のほうが遥かに研究熱心で、膨大な研究費もかけておられます。

ここではホンダ自動車のHPの「衝撃実験」をお借りして、大人の足音・子供が走り回る足音対策を考えていきたいと思います。

 

いきなりショッキングな画像で恐縮ですが、衝突実験の画像です。(車内の人のけがを極力小さくするための実験)

 

左側はインサイトという普通車です。(車の重量1600kg)

右側はおなじみのNboxです。(車の重量800kg)

 

このあとどうなったでしょうか? 

衝突した地点は赤いラインが重なる場所です。

インサイトはその場に留まっています。

Nboxはというと、ずいぶん遠いところまで飛ばされました。

なぜでしょう?

Nboxの重量は800kgであり、インサイト(1600kg)の半分しかないからです。

 

仮に、NboxがベンツのSクラスに、突進したらどうなるでしょう。たぶん、ベンツのSクラスはビクともしないでしょう。

➡ ヒント1:重いほうが有利(質量則)

 

Nboxは軽量だしボンネットも短いけど、衝突しても室内空間はぺっちゃんこにならないように、工夫してあります。

骨組みを工夫することによってボンネットで衝撃を吸収するように設計されているのです。

 

➡ ヒント2:衝撃を吸収する装置が必要

 

 


賃貸マンションへの応用


60kgの大人が静かに歩くとき足にかかる重量はほぼ60kgです。

では、幼稚園児年長さん(体重20kg)が走り回る時、足にかかる重量はどれくらいでしょう?

桜井智野風教授(桐蔭横浜大学:運動生理学博士)によると、体重の約4倍、80kg分の衝撃だそうです。

それに対して私がつくるマトリョーシカ構造の床の重さは6帖の大きさで2400kgあります。ベンツのSクラスよりさらに重くしました。

床の重量は、走り回る子供の衝撃力の30倍もあるので、ビクともしません。

 

とはいえ、衝撃波は残ります。

なので、これを吸収する装置が必要になってきます。


現場ではこのように造る


① 衝撃吸収材の上に防水シートを張り巡らす

② 浮床の強度を確保するために餅網状の鉄筋を配置

③ 手前に見えるのは、地震時に浮床が移動しないための土手

④ コンクリートを10㎝の厚みに打設する

⑤ 周りの壁と癒着しないよう浮床の周囲にも衝撃材を挟む

⑥ コンクリートの比重は2.4なので、6帖の部屋で2400kg



衝撃波を吸収するマトリョーシカ構造


元々のコンクリートの床の上に衝撃緩衝材を敷いて、その上にもう1枚コンクリートの床を作る。

間仕切り壁や外壁を軽量化して建物全体の耐震強度を保つ。

上の写真で黄色く映っているのが衝撃緩衝材。

走る子供の足は80kgの衝撃を加えるが、2400kgの床に跳ね返される。それでも残る衝撃波を衝撃緩衝材が吸収する。



LH-35の性能をハウスメーカーが作れるか?


繰り返しますが私の苦い経験から、足音を消すにはLH-50ではまだまだ性能不足です。

入居者の9割以上が納得してくれる足音対策にはLH-35が必要です。

 

このような構造を、ハウスメーカーのマンションにつくれるかというと、はっきり言って「ムリ」です。

なぜなら、重量鉄骨とは名ばかりで、建物としては軽量級だからです。

ちなみに重量鉄骨の定義は、鉄骨の柱や梁の肉厚が6㎜以上と定められています。

6㎜といってもピンとこない方のために、食パンを例にとってお話しします。

サンドイッチ用の食パン(10枚切り)の厚みは、12㎜です。

あのペラペラの、サンドイッチ用の食パンの、さらに半分の厚みがあれば重量鉄骨と呼ばれるのです。


ハイブランドハウスメーカーの鉄骨

Musik北参道の鉄骨



上の写真はどちらも重量鉄骨です。

ボクシングには体重に応じてクラスが15段階もありますが、鉄骨には2つしかありません。

ここで勘違いなさらないでほしいのすが、ハイブランドハウスメーカーの構造体は弱いと言っているのではありません。

ハウスメーカーのマンションも、地震にはめっぽう強い耐震構造です。

でも、地震に耐えることと、大人が歩いたり子供が走り回ったりするときの振動は別モノなんです。

いくら地震に強くても、振動や音は伝わってしまうのです。

振動を止めるには、ベンツのSクラス以上の重さのコンクリートの床を二重に敷き詰めるしかないので、鉄骨も基礎もスーパーヘビー級にならざるをえません。

よって、「軽量級であるからこそ地震に強い」というハウスメーカーの立ち位置では実現不可能です。

ハウスメーカー基礎

私が設計する中規模のビルの基礎



気になる建築費は?


ハウスメーカーのアパートの建築費(2025年4月)です。

ハイブランドハウスメーカーのアパートの坪単価は140万円ですね。正直、私が思っていたより遥かに高いです。

 

坪単価140万円

そこまで支払うなら、騒音も足音も皆無な

マトリョーシカ構造のマンション建設が可能です。

ぜひご検討ください。

(ただし、延べ床面積500坪以上でお願いします)


独壇場! ➡ 築年数が経っても家賃が下がらない


前述のとおり驚異的な静けさを実現するLH-35をつくるには、鉄骨も基礎もスーパーヘビー級にする必要があります。

よって、

① ハウスメーカーでは実現不可能

 理由:企画部品を工場で大量生産して現場で組み立てるからこそ、ハウスメーカーに利益が生まれる。

    そのためには、建物の軽量化が不可欠。

② 既存のマンションを改修できない

 理由:耐震基準ギリギリな構造計算がなされているので、マトリョーシカ構造を追加すると重量オーバー ➡ 耐震性不足となる

 

すなわち、競合が現れない。➡ 独壇場 ➡ 築年数が経っても家賃が下がらない

※ マトリョーシカ構造の防音・足音対策性能は築年数が経っても衰えません