ハイブリッド賃貸30㎡開発物語


「おいっ、そこの若いモン、わしと勝負せんか!」

米軍払い下げのジープからさっそうと降りたった男は、中山キンニ君さながらの筋骨隆々。褐色の肌。

周りからアニキと呼ばれている、近畿土木工業の若頭である。

アニキは若いモンを見つけるとすぐ腕相撲を挑むのである、昼飯を賭けて。

「きょうは調子わるいからやめときまーす」と後ずさりする若い職人の二の腕をぐいっと引きずりよせる。

「さっ、勝負や!」と言うが早いかバタンッと勝負が決まる。「はい、つぎいー」 「はい、つぎいー」

なかには両手でしがみつく者もいたが、エイっとばかりにすっとばされた。

「最近の若いモンはなっちょらんっ!」と言いながらアニキは若いモンに昼飯をおごるのであった。

 

そんなのどかな昭和6041日、私は設計事務所として独立した。

高校2年生の進路指導で将来の道を決めて、みじんも迷わず突き進んだ道。建築専門学校学校を首席で卒業し、設計事務所と工務店で10年間下積み生活をしての独立である。

事務所は自力で借りられないのでアニキの事務所へ転がり込んだ。アニキの事務所は32㎡(約10坪)で、すでに奥田建築設計事務所が間借りをしていた。家賃は10万円である。そこへ私も間借りの間借りをさせてもらったのだ。

家賃の分担はたしか、アニキが5万円、奥田先輩が3万円、私が2万円だった。

そんなことを思い出したのは、30㎡型FHH(フューチャー・ハイブリッドホーム)の企画のとき。

はじめて起業するときは、2,3万円の負担でないとやっていけないよなー。

 

2024年に設計して2025年に工事している《ランドマークFHH50㎡》は京都のメインストリート《四条通り》沿いにあるので、

家賃もそれなりに高い。もちろん、住まいと仕事場の家賃をダブルで払うより安いのはいうまでもないが。

立地が一流でない場所では、家賃を10万円に抑えたFHH30㎡(フューチャー・ハイブリッドホーム)を企画しないといけないと思い、頭をひねった。

 

「今日からお世話になります、安田と申します」とアニキにささやかなプレゼントを渡す。

アニキはなにもいわず、袋をバリっとやぶいた。

鬼瓦のような顔が威厳をたもちつつ、ちょっと恥ずかしそうに、子猫に癒されたようになって、

「おー、分かっとるやないかー」とひとこと。

 

私は金のラメ入りの腹巻をプレゼントしたのだアニキは筋肉は強いけどお腹が弱いと聞いていたからである。

そういえば真夏でも腹巻は欠かさなかったなあ。


2タイプのFHH30㎡


仕事場と住まいのハイブリッドですが、中途半端はいけません。

住まいをメインにおくか、仕事をメインにするか、はっきりしないと墓穴を掘ることになります。


住まいをメインとしたFHH30㎡


Chargeの床を625㎜上げて、その下にアンダーカーゴを設けて収納力をアップ

来客に生活臭を見せないために、トイレとスタイリッシュな手洗いだけはホームオフィスにある


仕事をメインとしたFHH30㎡


このFHH30㎡は、あきらかに仕事場です。

デザイナー、建築士、司法書士、エステ、ネイルなど、独立起業する人にピッタリです。

ペニンシュラキッチンはカフェ仕様になっています。

その奥で、なんとか頑張って寝起きする、頑張り屋さんを応援するFHHです。

生活臭がはみでては元も子もないので、アンダーカーゴを設けました。

なんともキビシイ企画ですが、私の経験から言わせてもらうと、これくらいの根性がないと

起業は成功しません。



昭和60年4月1日 離陸

9時~23時まで14時間勤務。もちろん土曜日も仕事。祭日なし。盆正月無し。週に2回祇園へお付き合い。月に1回ゴルフお付き合い。子供が起きている顔を見たことがない。

こんな生活が20年ばかり続き、家族がガタガタになることを、29歳の私は知る由もなかった。 

 


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