ひとつの建物の設計ができあがっていく過程をブログでお伝えしたいと思います。初回は《クロスコート前橋広瀬川》です。
クライアントの会社を繁盛させるお手伝い
私は社屋を設計させてもらうとき、会社の繁盛をお手伝いする仕掛けを秘かに練り込みます。
今回はCCIM(米国公認不動産投資顧問資格)やCPM(米国公認不動産経営管理士)などを有する不動産会社ですので、
《気品と信頼》をテーマにしました。
これからお話しする手法はあくまで私たちが練り込んだものであり、クライアントから要求されたものではありません。

中央が受付カウンターで、左側は軽い打合せコーナーです。
そこへ通された人は、少し高くなっているところに立派な商談コーナーがあることに気づきます。
《あそこで商談したい》という欲求が自然とわいてくるでしょう。
晴れて小上がりに通されたとき、《自分は大事に扱われているのだ》と自負するでしょう。
するとどうなるか? バカなことは言いにくくなる。つまり値切りにくくなるはずなんです。

小上がりからは、オフィスの中を垣間見ることができます。が、重要な部分は見えません。
そしてときおり自動ドアが開きます。
エントランスに自動ドアがあるのはふつうですが、間仕切りドアが自動なのは珍しいと思います。
一瞬オフィス内が見えますがすぐに閉まってしまいます。
《中はどうなっているんだろう?》

中へ通されるチャンスがきました。うー、カッコイイ。知的。
「こちらへどうぞ」と、ガラス張りの会議室へ通されました。

会議室内。なんかちょっと、緊張感ありますよね。
つぎの瞬間

「あっ」と出そうな声を押えて「うっ」
いいえ、とっちめたりしないのでご安心ください。
ただ、商談を有利に進めようと思っておるだけですから。
外観デザインのテーマ
1:近代美術館を思わせるシャープで優雅な外観
2:休日や夜間にシャッター街にならない
3:広瀬川ヴューを室内からも楽しめる


伸びやかに大きく張り出したシャープな大屋根特徴です。画像の左上をご覧ください。
実は最初の設計ではここにトユがありました。だっせー
さっそく改善しました。 👇 👇 👇

つぎのテーマは、夜間のセキュリティとデザイン性の両立です。
とくに地方都市でのシャッターは負のイメージが強いので、どうしても避けたいのです。
そこで京都の町家をイメージした格子を採用しました。
格子の開閉は毎朝毎晩のことですから電動でないと使い物になりません。といってもそんな製品はありません。
探しにさがして《ライアーレ》というガレージ用の電動縦格子を見つけて、それを表裏逆に取り付けることにしました。


夜はなかなかの迫力です。
エントランスはギャラリーになっており、名画が並びます。

名画を引き立たせるため、
オルセー美術館の壁の色をいただきました。
さいごのテーマは、広瀬川ヴューと生活臭の排除です。
1フロア4戸の両端(Type:A/D)には道路から見えない場所にサービスバルコニーがあり、そこで洗濯物を干せます。
真ん中の2戸(Type;B/C)はワイドスパンにして、半分を広瀬川ヴュー、もう半分を洗濯物干しにしました。
通常のベランダ手摺は腰の高さなので、洗濯物を干すには低すぎます。
クロスコート前橋広瀬川ではベランダを胸の高さにし、洗濯物がしっかり干せるようにしました。
また、Type:B/Cのベランダは足元からすぐ大きなガラスにして、室内から広瀬川を臨めるようにしました。


広く見せる技:マンション編
左右の写真を見比べてみてください。左のほうが遥かに広く見えますよね。
もし、キッチンの上に吊戸棚があると、右の写真のようになります。視界がそこでカットされるからです。
(収納量を確保するために、吊戸棚はキッチンのバックの壁に取り付けました)




キッチンからリビングを望むときも視界が開けてスッキリし、アウトドアリビングまで見わたせます。
玄関脇にあるホームオフィスからリビングへのドアを設けず、チラ見できるように設計しました。
「どんだけ広いねんっつ!」と思うほどの奥行きがあります。が、キッチンは見えません。
来客に生活感を見せたくなかったからです。ですからトイレは玄関わきに設けました。


住戸全体の間取図はこうなっています。

広く見せる技:事務所編
ふたつの写真を見比べてみてください。明らかに右のほうが広くみえますね。
常はガラスを透明にして、のびのびと仕事をしてもらえます。
ボタンをおすとガラスは一瞬にして不透明になるので重要な会議の時、そして社員を叱る時? に使ってほしいと思います。


事務所の左側にも、空間を広く見せるテクニックをつかいました。
左のほうにボックス状の小部屋が2つ並んでいますね。ロッカー室と管理器具庫です。
それらの小部屋の壁を天井まで届かさず、途中でとめました。
もし、天井まで到達していたら右の写真のようになります。かなりイメージがちがうでしょ?


仕事がはかどる室内気候
群馬県前橋市の冬の午後はとても寒いです。午前中は晴れることが多く日射にめぐまれるのですが、午後2を過ぎたころから急に、赤城山から冷気が吹きおろしきて、震え上がるほどです。
そんなときハワイアンウォーマーが足元からやさしく温めてくれます。
頭寒足熱という古い言葉がありますが、ハワイアンウォーマーはちょっと違います。
暖房していることを忘れるといったほうが正確です。

ハワイアンウォーマーは弊社のオリジナルで、あえて床暖房と区別しています。もっとも大きな違いは床の温度です。
一般の床暖房が30℃近くなるのに対して、ハワイアンウォーマーは22℃です。それでいて充分暖かいのです。
また、エアコンの室外機でお湯をつくるのでとても省エネで、ハワイアンウォーマーをONにしてもそのぶん電気代が増えるということはありません。(もちろん建物の断熱性能が優れていることが条件です)
ハワイアンウォーマー採用の理由は仕事がはかどることです。
人間は体温調整のためにかなりのエネルギーを消費するので、暑くも寒くもない環境をつくってあげると、そのぶんのエネルギーを仕事にまわせるので、生産性がぐっとあがります。(はず)
もう一つだいじなこと、それは湿度調整です。湿度調整は温度調整よりむずかしく、へたをするとエネルギーの垂れ流しになります。クロスコート広瀬川では全熱交換型ロスナイを採用しました。
《全熱》とは、「温度だけでなく湿度も保つ」という意味です。夏季の除湿にしても冬季の加湿にしても、全熱交換の換気扇を採用しないと湿気の垂れ流しとなって、不快であり、電気代もたくさんかかります。
本件では事務所を4つのエリアに分けて、ハワイアンウォーマーの温度をコントロールできるようにしました。
窓際と部屋の中央では熱ロスがちがいますし、男性と女性でも好みの温度が違うからです。
ひとつの部屋でエリアごとに空気の温度を変えるのは難しいですが、床の温度なら簡単に調整できます。